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Vol. 210 Cashmere Raw

10月というのにまだまだ暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
気温もさることながら、秋らしくない蒸し暑さがありますね。

先日もお知らせしましたが、Loropianaの”Cashmere Raw”のジャケットが完成しました。


Loropiana  “Cashmere Raw”  100% Cashmere  300-310g

LoropianaのCashmere Rawのジャケットが完成しました。
Cashmere Rawは染色を一切していない原毛のみを使い、その原毛の色の違いで柄を表現しています。
一般的に1メーターの生地を作るためには100リットルの水が必要と言われており、染色による水を一切使わない、環境にやさしい生地です。
きれいなチェック柄を保つために、前ダーツを省きました。

ところで、先月、お話をしたR.W.S(Responsible Wool Standard)のお話の続きです。
「Slowing Down Fast Fashion」という映画をご存知でしょうか。
2010年に英国のチャールズ国王(当時は皇太子)が提唱し、世界の牧羊産業の発展とウールの需要促進のために始まった「The Campaign for Wool」が協力して制作されたドキュメンタリー映画です。
確か、Amazonのプライム会員であれば、今もPrime Videoで無料で観ることができます。
英国のミュージシャンのアレックス・ジェイムズがナビゲーターとして、まさに羊毛(ウール)に対する「贔屓の引き倒し」になりそうな、ウール礼賛の内容になっています。
まず、最終的に生分解性のない合成繊維を多用するファストファッションにより、鉱業、酪農業に次いでファッション産業による地球に対する汚染度が高くなり、ファストファッションの縫製のために安い賃金で雇われた工員がバングラディシュの縫製工場、ラナプラザの崩壊により1133名亡くなったことを上げています。
更に、同じ天然繊維であるコットンについても、綿の栽培から製品化までの工程で、1枚のジーンズを作るために1万リットルの水が必要で、そのために世界第4位の湖であるアラル海が砂漠化した、世界中の殺虫剤の25%が綿花栽培のために使用されている、インドにおいては綿花栽培業者に対する貧農搾取が繰り返され、多くの自殺者が出たなど、厳しく糾弾されています。
それに対して、ウールはコットンの6倍長持ちし、温かく吸音性にも優れ、再生可能で生分解性もあり、燃えにくいなど多くの利点があるので、ウールの服を着ましょうという内容です。
映画によると、服を3か月間長く着れば、二酸化炭素、水の使用、廃棄物を1割削減できるそうです。
ただ、この映画で大絶賛であったウールについても「ミュールジング」という問題もあります。
ミュールジングとは、しわの多い羊のお尻の部分は排泄物等で虫がわきやすくなるため、それを防ぐために無麻酔で皮膚や肉の一部を切り取る行為です。
英国やニュージーランドにおいてはすでに法律で禁止されており、無印良品をはじめとする世界の大手のアパレルメーカーが「ノンミュールジングウール」のみの使用を表明していますが、特に皮膚にしわの多いメリノ種の羊の飼育するオーストラリアではまだまだ、道半ばといった状況です。
先月ご紹介したR.W.S認証においては、もちろん、規制対象となっています。

映画の話に戻りますと、
まあ、ウール翼賛の内容ではありますが、自分が着る服について、
*産地や誰が作ったか、そして使った後にどこに行くのかを知ろう。
*質の良い衣類に投資をしよう、少なく、良い買い物をしよう。
*天然素材を見直して、修理をして長持ちさせよう。
*習慣を変えて、クリエーティブに。
はそのとおりだと思いますね。
日本においては、年間29億着の服の供給に対して、実際に売れているのは14億着のみと言われており、まずは服の売り方、服の買い方を見直していく必要がありそうです。
(あるアパレルメーカーの責任者が、TVのインタビューで、売り場の棚を埋めるために、通常、売上予算の倍の商品を投入すると言っていたので、当然のごとく、半分が在庫になるわけですね。)
作る量を減らすことにより、一点当たりの販売単価も下がり、在庫処分の手間や費用も節減できると思うのですが・・

その意味において、お仕立服はまさに理にかなっています(笑)
私が冬になると手放せないジャケットが2着あります。
一着目は、カシミアの冬物です。
カシミア100%で体にまとわりつくので温かく、長年の着用で芯地などが身体にフィットしているので完璧な着心地で、つい手が伸びてしまいます。
内ポケットの証紙を確認してみると、13年前に作ったものだということがわかりました。

毎日の脱ぎ着で、アームホールが解れていますが、もちろん工房で簡単に修理をすることができます。

 

高いカシミアですが、コストパフォーマンスも非常に高いですね。

もう一着はInnes Chambers (Holland & Sherry)の「Jasmine」という伝説のカシミア/シルクのオールシーズンのジャケットです。
秋口や春先も快適に、更に冬でも暖かい非常に便利なジャケットです。
こちらはさらに古く2009年に作っていました。

 
こちらは幸い、内側もほとんど傷んでいません。
クラシックなスタイルなので、外見に古さは一切見られません。
幸い、この14年間で、体形もほとんど変化していない点は大きな要素ですが(笑)
いずれにせよ、着用するごとに前述のような「良い買い物」の満足感を感じること、これは本当に素敵なことですね。

(おわり)

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