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No. 247 So, What is Tweed?

真夏の猛暑からは解放された感じはありますが、今年は雨が多く、気候が不安定ですね。
今年こそ、秋を満喫できれば良いのですが。

当店のお仕立も、ハンドメード、マシンメードとも、通常よりお仕立に時間がかかっており、皆様にご迷惑をおかけしているのですが、これから冬が始まるということで、ツイードについてお話をしたいと思います。

そもそも、ツイードとは何か、
1963年に当時の服地の輸入卸売業の社長の吉岡善一氏が上梓された「Scotch Tweed’s Splendour」によると、ツイードとは何か?の問いに対して「誰でも昼と夜の相違を知っているが、それが移り変わる境を正確に指摘できない。そのようにツイードと他の服地の違いは知っていてもその区分は仲々できないものである。」(原文ママ)ということです。


吉岡善一氏著「Scotch Tweed’s Splendour」

また、1966年に株式会社洋装社が発刊した「紳士服百科辞典」においても、トウィード(ツイード)の説明として、「ツイードの総称。初めはスコットランド地方において手で紡いだ糸を手で織ったホームスパンのことだけをトウィードといったが、現在は手織りのものだけでなく機械織のトウィードの類をも含めてトウィードと総称するようになった。以前はスコッチといわれたが今ではほとんどツイードと言われる。・・・」ということで、ツイードについては分かったようで分からない解説です。


洋装社刊 「紳士服百科辞典」

この『紳士服百科辞典』は、服飾用語だけでなく原毛から服地までの製造工程、織柄見本、色名なども収録した名著です。現在でも古書市場で比較的入手しやすく、服地好きにはぜひおすすめしたい一冊です。
繊維関係の会社の社長室の本棚に眠っていたような、ほぼ新品が手に入ることが多いです。
ちなみに私が購入したものには、若干の使用感はありましたが、逆に1960年代のアイドルのしおりが挟まっており、非常に得した気分でした。


「紳士服百科辞典」に挟まっていた当時のアイドルのしおり

閑話休題、こうした古い文献を読んでも、結局「ツイードとは何か」を一言で定義するのは難しいことが分かります。
現在でも公的な統一された定義はなく、産地・原料・製法によって規定されるよりも、生産者や市場によってツイードと認識された服地の総称と考えるのが実情でしょう。
そもそもツイードという呼称も、ツイル(Twill・綾)のスコットランド語のTweelの最後の「l」を「d」に書き間違えたことで、スコットランドの織物の産地を流れるTweed川を連想させて、一般呼称になったと言われています。
ということで、現在でもツイードと呼ばれている生地についてご説明しますが、様々なツイードをIP(知的財産)の観点から読み解くと、また違った趣きがあります。

 

◇ Harris Tweed
いわずと知れた、ツイードの代表格です。
これは、スコットランドのアウターヘブリディーズ諸島で手織りされた、主にジャケット生地で、Kemp(死毛、すでに枯死した不良羊毛で、弾力がなく染まりにくく、白く表面に残った粗毛)が多く含まれるのが特徴です。


Carnet “Harris Tweed”  100% Wool  480g

1993年に英国議会によって「Harris Tweed Act(ハリスツイード法)」が制定され、産地の限定、製造方法の規定、管理機関による検査、認証マークの発行などが厳密に規定され、ブランドの管理が行われています。
日本でいう、結城紬や会津塗などの伝統的工芸品制度や神戸ビーフや夕張メロンなどに適用されるGI(地理的表示)に似ています。
ただ、原料や製法については、時代とともに変化をしており、もともとスコットランド産のウールによる手紡ぎが要件でしたが、需要に追い付かなくなり、現在は羊毛の原産地にはこだわらず、アウターヘブリディーズで機械的な紡績をした糸も使えるようになりました。


左が1993年のHarris Tweed Act以前、右が現在の生地マーク、管理団体や原料の要件が変化している。

 

◇ Donegal Tweed
近年、見かける機会が増えているアイルランドのツイードです。
アイルランド共和国の北西部、英国の一部である北アイルランドと接しているドニゴール県で生産されるツイードで、何と言っても色とりどりのネップが特徴で、当地の霧やヒース、岩山などの風景を表現していると言われています。
(そういえば、アイルランド共和国は、小学校の社会科ではアイルランド語の呼称であるエール共和国と習った気がします。)
明るいブルーやオレンジなど、鮮やかな色合いの服地もあり、カラーネップと相まって、楽しい生地です。


Molloy & Sons  “Donegal Tweed”  100% Wool  390g


W.Bill  “Irish Donegals”  100% Wool  440g

ただ、ドニゴールツイードは、Harris Tweedのような強力な法的保護や独立した管理機関による認証制度はないため、メーカーによって、原料や製法の違いはあると思われ、日本の制度であえて近いものを探すなら地域団体商標的な位置付けとも言えそうですが、実際には法的保護の強さや管理体制は大きく異なります。
地域団体商標は、今治タオルや有田焼などのように「地域名+商品名」を商標として登録する制度です。

 

◇ Shetland Tweed
シェットランド諸島原産のシェットランド種の羊の原毛を使った服地ですが、現在はシェットランド諸島以外でも広く飼育されています。
ただ、法的な保護や認証制度などもないため、「シェットランド」の名称は、羊の品種を指す場合、諸島で紡績された糸を指す場合、あるいはシェットランド調の風合いを指す場合などがあり、必ずしも意味が統一されているわけではありません。
また、現実的には、Jamieson’s of Shetlandのような紡績メーカーが、シェットランドウールにこだわり、シェットランドのIPの維持を模索してきた、と言えるかもしれません。
しかし、ハリスツイードやドニゴールツイードとは違い、逆に伝統にとらわれない鮮やかな色合いが、軽やかな風合いと相まって、カーディガン的な軽快なジャケットに最適です。


Dugdale Bros.  “Caldonaire Shetland Tweed”  100% Wool  380g


W.Bill  “Classic Shetland”  100% Wool  390g

 

◇ Cheviot Tweed
スコットランドとイングランドの国境地帯に広がるチェビオット丘陵を原産とするチェビオット種の羊の原毛を原料としたツイードです。


Porter & Harding  “Glenroyal”  100% Wool  435g


Lovat Mill  “The Kirkton Tweed”  100% Wool  500g

これも、シェットランド以上にIP的な要素には乏しく、チェビオット羊毛を使いながら、Cheviot Tweedと称していないコレクションがほとんどです。
厳しい気候の丘陵地帯で育った羊の毛は、非常に頑健で雨や寒さに強く、弾力性や耐久性が高い割に光沢もあり、英国カントリークロージングを支えた代表的な羊毛と言えます。
チェビオットツイードの典型的な例が、ドーメルの「Sportex」です。
これは、ツイードでありながら、スーツ生地として一世を風靡しました。

 

◇ Lamb’s wool

ラムスウールとは、文字通り子羊の産毛で、生後7カ月前後に最初に刈り取るものです。
柔らかく弾力があり、チクチクしないのが特徴です。


Dugdale Bros.  “Stonewater Beck Lambswool”  100% Wool  370g

また、羊の品種を問わずラムスウールと称するため、シェットランド種、チェビオット種、メリノ種など様々な原毛があります。
ただし、ラムスウールのジャケット生地は柔らかさゆえか、ツイードと呼ばれることはないため、この辺りが前述の「昼と夜の境目」なのかもしれません(笑)

つまりツイードとは、法律や規格で厳密に定義されるものではなく、産地や原料、歴史や文化の積み重ねによって形づくられてきた概念なのです。
同じツイードと呼ばれる服地でも、法律によって守られているものから、生産者の努力によって伝統が受け継がれているものまで、その背景は実に様々です。
だからこそツイードの世界は奥深く、一括りに語れない面白さがあるのではないでしょうか。

(おわり)

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